素直に羨ましく思った自分自身に驚いたのは、そんなことを考えてから数秒が経った頃のこと。


今までの私なら“羨ましい”なんて思うことはなかったし、もしそんな風に感じたとしても抱いた感情に蓋をして誤魔化していただろう。


たとえ、自分の心の中だけだったとしても、そうして目を背けたに違いない。


だから、口に出したわけではなくても羨ましいと感じたことを素直に受け入れた自分自身の変化に、とても驚いていた。


クロに言わせれば、こういうことも“変わり始めている”影響なのだろうか。


今すぐに訊いてみたくなったけど、彼の連絡先すら知らない私は、夜まで待つしかないのだと気づく。


その時にはもう素直ではいられなくなっているような気がしたけど、できることなら話してみたいと思った。


「ねぇねぇ」


無意識のうちに手が止まっていたことに気づいたのは、堀田さんの声が聞こえてきた時だった。


手にしたままのペンケースをバッグに入れてファスナーを閉めると、再び「ねぇ」と呼び掛けが耳に届いたけど……。


「松浦さーん!」


いつかと同じように、まさか自分が声を掛けられているなんて考えもしていなかったから、それまでよりも大きな声で名前を呼ばれて初めて隣の席を見た。