しばらくの間、クロは黙っていた。


探るような視線を向けられて、無意識に身構えてしまう。


私の気持ちを読み取ろうとしているのだろうけど、彼の黒目がちの瞳に真っ直ぐ見つめられた瞬間から胸の奥がざわつき、その感覚に戸惑った。


だけど、自分でも理由のわからないざわめきを悟られたくなくて、小さな深呼吸をしたあとで必死に心を落ち着かせようとした。


「なんとなく、わかってるよ」


程なくして、意を決したような顔をしたクロが静かに答えた。


「でも、千帆の口から聞きたい。……それが、千帆自身にも必要なことのような気がするんだ」


彼の口調は穏やかで、決して強引さは感じない。


触れられたくない過去のことを言われて心はとても重いのに、相変わらず不快な感情は生まれてこなかった。


「つらいことを無理に話してほしいとは思わない。でも、千帆自身が向き合わないと、いつまで経っても前には進めないと思うから」


クロの言葉がひとつひとつ胸の奥に落ちていき、彼が本気で私の背中を押そうとしてくれていることが伝わってきた。


本当は誰にも話したくないし、彼に対しては特に強くそう思う。


それなのに、クロの真剣な表情を見ていると、今話なさければいけないような気がした。