「千帆は、夢とかある?」


いつものように公園でクロと話していると、不意に彼がまるで今朝の出来事を知っているかのような質問を口にした。


「急になに?」


「高三の夏なら進路をはっきりと決めてる時期だし、夢とか目標があるなら知りたいと思って」


「……あったとしても、クロには関係ないでしょ」


そんな風に言ったのは、『なにも決まっていない』なんて答えたくなかったのはもちろん、あと十日もすればなんの繋がりもなくなってしまうクロには関係ない、と思ってしまったから。


彼とこうして過ごすのも、今日を除けばあと十日。


最初はこの関係が終わればせいせいすると思っていたはずだったのに、今はその時のことを考えるとなぜか心がモヤモヤとしてしまう。


「教師とか、意外と向いてると思うけど」


「は? 学校嫌いの私が、どうして大人になってまで学校に通わなきゃいけないのよ」


私の気持ちなんて知らないクロの言葉に眉を寄せて心底嫌だと言わんばかりの顔をすると、彼は「案外悪くないと思ったんだけど」と苦笑した。


どうやら本気で言っていたらしく、相変わらずクロの考えていることがわからなくてため息が漏れたけど、彼が私をからかうつもりがないのは伝わってきて不快さは消えた。