「余計なお世話なんだけど」


「ははっ。その言い方、千帆らしいよ」


クロの笑い声がわざとらしく聞こえたのはたぶん気のせいではなかったと思うけど、気の利いた言葉なんて思いつくはずがなくて、からかうように笑う彼に「うるさい」と悪態をつくことしかできなかった。


可愛げがないことはわかっていたけど、そうすることでしか平気な顔を見せられそうになかったから。


「やっぱり前言撤回する方がいいか。千帆、ちょっと悪態は控えろ」


「なんで?」


「そう言うと思った」


「だいたい、クロがいつもからかうせいでしょ」


「それも言うと思ったよ」


苦笑したクロを見て、ようやく私たちの間にあったぎこちなさが消えたような気がした。


慣れない会話に疲れるけど、決して嫌ではない雰囲気は、この二週間で出来上がっていったもの。


もうずっとこうして言い合える相手がいなかった私には久しぶりに味わう空気感で、この数日はほんの少しずつ楽しさを覚え始めていた。


もちろんそれを素直に認めたくはないけど、彼の前だというのに思わず笑みが漏れそうになる。


そんな風に感じるようになった私にとって、クロとの時間は自分で思っているよりも大切なものになりつつあるのかもしれない。