不意にクロがからかってきて、ムッとした私が言い返す。


そんないつもの雰囲気になって欲しかったのに、途端に寂しそうにした彼を見て、失敗したことに気づいた。


同時に、人付き合いを避けすぎた代償を感じて、空気を読めない自分自身が嫌になる。


もともと上手く切り返せないことも、三年前のあの時だってもっと雰囲気を察していれば切り抜けられたのかもしれないことも、痛いほどわかっているのだから変わらなければいけないのに……。


「ごめん……」


私には簡単にできることではなくて、せめて勉強みたいに明確な答えがあればいいのに、なんて思いながらそう言った。


小さく小さく零した声は掠れていて、謝罪まで下手な自分自身にため息をつきたくなる。


だけど……。


程なくして、クロはそんな私の気持ちをすべて察するようにふっと笑みを浮かべたあと、私の左頰に触れていた手を頭に移動させて髪をグシャッと撫でた。


「なーにらしくない顔してるんだよ。千帆は悪態ついてればいいよ」


乱暴にグシャグシャと髪を撫でる彼が、「ただし、それは俺の前だけにしとけよ」とニカッと笑った。


ぎこちないながらもいつもの雰囲気に戻ったことにホッとした私は、そんな気持ちを隠しながら口を開いた。