二週間の間に与えられ続けた優しさが温か過ぎて、クロとの時間が心地好いものになってしまっていたこと。


それを認めるしかないのだと悟ったのは、微笑する私を見つめる彼の漆黒の瞳と視線がぶつかった瞬間だった。


沈黙が訪れた夜空の下で、視線が重なる。


見つめ合っていると綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうで、言葉を紡ぐことを忘れるほどクロの眼差しに囚われていた。


「千帆……」


不意に切なげに零されたのは、私の名前。


『なに?』と返事をしようにも声が出なくて、考える間もなくいつの間にか眉を寄せていた彼が伸ばした手を受け入れていた。


そっと左頰に触れた、大きな手。


温かい手を拒絶しなかったのは、暗い場所に落ちてしまいそうだった心が安堵に包まれたから。


「泣きそうな顔してる」


ぽつりと零したクロの方がよほど泣きそうに見えるのに、彼が切なげな瞳で私を見つめるから本当に泣きたくなってしまって……。


「……そんなわけないでしょ」


必死に鼻で笑って見せたけど、なんとか零した強がりの声は震えていたかもしれない。


「なんで私が泣かなきゃいけないの。あと二週間でクロと会わなくて済むんだから」


それでも、精一杯の悪態をついて笑った。