「どうした?」


それから数時間後、晴れた夜空の下で会っていたクロが突然そんな風に切り出した。


「え?」


「今日は元気がないな。なにかあった?」


さっきまでは笑顔の練習をさせられていたのに、急に心配そうな顔を見せられて戸惑う。


「別にそんなことない。普通だよ」


昼間に考えてしまったことが頭から離れないことは隠して平静を装ったけど、彼はなにかを察するように微笑した。


「千帆は、よく頑張ってるよ」


元気づけようとしているのか、クロが優しい笑顔でそんなことを言うから、思わず彼から視線を逸らした。


ツキのことで不安を感じて少しだけ弱っている私は、こんな言葉を聞いただけでも油断すれば泣いてしまいそうで、歪みそうな表情を見られたくなかったから。


「この二週間ずっと、傍で千帆のことを見てきたけど、千帆は不器用だけど優しいところもたくさんあると思う」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、クロが穏やかな口調のまま続けたけど……。


「優しさを上手く出せないのはまだ過去の不安が強く残ってるせいだろうけど、千帆はちゃんと努力できる子だから、あと二週間もあればきっと変われるよ」


そこまで聞いた時、ハッとして目を小さく見開いていた。