「なんともなくてよかったね」


強い陽射しからツキを守るために差している日傘の中で微笑むと、左腕の中にいるツキが「ニャア」と鳴いた。


もう心配するなよ、と言われているようで、ふふっと笑ってしまう。


ずっと気になっていたからなんともなかったことに安堵し、念のために受診してよかったと思いながら住宅街を歩いていると、ふと笹飾りが目に入った。


折り紙で作った飾りと短冊が吊るされた笹を見て、明日が七夕だということを思い出す。


短冊に願い事を書いたのはたぶん小学生の時が最後で、思わず懐かしい気持ちになった。


今はもう短冊を書く機会なんてないけど、もしも願い事を書くとしたら私はなにを願うのだろう。


受験や将来を始め、自分自身が一番苦手な人間関係のことが浮かんだけど……。


「ツキと出来るだけ長く一緒にいられますように、かな」


ぽつりと零れたのはまったく別のもので、だけど私自身がなによりも叶えて欲しい願い事だった。


クロに言われたから、というわけではないけど、猫の寿命があまり長くないことは知っている。


明確な出生日はわからないけど、だいたい十歳になるツキとどのくらいの時間を一緒に過ごせるのかと考えてしまい、不安と寂しさに苛まれた──。