伏せていた顔を上げると、クロがそっと手を離した。


頭に残った温もりのせいか、彼の手が離れたことに名残惜しいような気持ちを抱きそうになって、慌ててそんな感情を追い払う。


それから、意を決して口を開いた。


「……どうして?」


「ん?」


「どうして、クロはこんな風に私に接するの?」


微笑みを見せたクロの視線を逃がさないように、彼の瞳をじっと見つめる。


いつもとは立場が逆だということに気づいて、これがからかうような話題ならきっと主導権を握れるかもしれないと密かに喜んだのだろうけど、今はそんなことはすぐに思考から抜けた。


クロは私につられるように真剣な表情をすると、少しの間なにかを考えるように沈黙を貫いたあとで息を吐いた。


「知りたい?」


真っ直ぐな瞳から視線を逸らすことなく、ゆっくりと首を縦に振って小さく頷く。


すると、ひと呼吸置いてから、彼がふっと笑みを零した。


「じゃあ、質問事項として覚えておく」


「え?」


「俺のことを話すのは一ヶ月経って千帆が変わったら、って約束だっただろ? だから、今の質問もその時に話すよ」


しれっと言ったクロは、まるでこれ以上の詮索は無意味だと言わんばかりににっこりと笑った。