挨拶以外の言葉を交わせたことが、とても嬉しかった。


高校に入学してからノートを貸してもらったことなんて一度もなくて、何度かノートを取り損ねた時は重要そうなところだった場合だけは先生に尋ねに行き、それ以外は諦めていた。


もちろん、こんな私にわざわざノートを借りに来る子もいなかったから、三年振りのやり取りに少なからず浮かれていた。


だから、私は初歩的なことを見落としていたのだ。


クロはいつだって“自分から話し掛けること”にこだわり、歩み寄ることの意味と大切さを真剣に話していた。


それをちゃんと心に留めていれば、今日の一件を喜んでいたとしても、ここまで心を弾ませながら話すことはなかったのかもしれない。


彼も喜んでくれているのはわかっていたけど、目の前の苦笑から見えたのは残念な気持ちの方が大きいということで、ひとりで浮かれていた自分が恥ずかしくなって瞳を伏せた。


「そんな顔するなよ」


すると、クロは困ったようにそんなことを言い、私の頭に大きな手を置いて髪をグシャッと撫でた。


「さっきも言ったけど、千帆がちゃんと努力してるのはよくわかってる」


私の心を優しく包むような声音で零された言葉に、胸の奥が苦しくなってしまいそうだった。