「……っ」


咄嗟に唇を噛み締めたのは鼻の奥でツンとした痛みを感じたからで、それがどういう行為に繋がるのかを知っているからこそ、零れそうなものをこらえることに精一杯だった。


「変な顔」


「うるさいっ……!」


強い口調で返したのはただの強がりで、クスクスと笑うクロが私が泣きそうだったことに気づいているのはわかりながらも、弱いところを見せたくなくて必死に平静を装った。


私のことを気に掛けてくれる人なんて、両親以外にはいないと思っていた。


そうするように仕向けたのは自分自身だからそれでいいと思っていたのに、こんな風に私のことを見てくれる人がいることが泣きそうなほどに嬉しくて……。


ガラにもない感情に心が動かされたことに戸惑って、どんな顔をしているのかも、どんな顔をすればいいのかもわからなくなる。


「きっと、次は上手く話せるよ」


ありふれた慰めの台詞なのに、彼の声で零されるとそんな気がしてくる。


昨日みたいに厳しくされたら反抗していたのかもしれないけど、優しくされることに慣れていないからどうすればいいのかわからなくて……。


「だから、諦めるなよ」


僅かに欠けた月の下で、隣から聞こえてきたクロの声に小さく頷いていた──。