自然と身構えていたのは、防御反応だったのかもしれない。


クロの声音ががっかりすることも、彼に厳しいことを言われることも、予想はできたけど……。


できることならどちらも聞きたくないのが素直な気持ちで、だからこそそれに備えるように構えたのだ。


それなのに……。


「そっか」


程なくして耳に届いたのは、優しいだけの声。


「よく頑張ったな」


しかも、クロは続けてそんなことを言ったのだ。


「え?」


予想外過ぎる台詞に驚いた私は、思わず顔を上げて見開いた瞳で彼を見た。


私に向けられているのは穏やかな笑みで、その表情がクロの言葉が本心であることを物語っている。


「なんだよ、その顔」


予想とは違う状況を把握できずにいるのに、ふっと笑った彼にますます戸惑って混乱してしまう。


「なんで、がっかりしないの……?」


考えてもわからない疑問を口にすれば、クロは瞳を柔らかく緩めた。


「千帆は、ずっと誰とも関わらないようにして来たんだ。他の人にとっては“たかが挨拶”だったとしても、千帆にとってはそうじゃないだろ。それがわかってるのに、がっかりなんてしない」


そして、優しさに溢れた答えが、それと同じくらいの優しい声音で紡がれた。