窓から夜を眺める。

 わたしの体がわたしのもとに確かにあること。

 それを今夜もまざまざと感じさせる、透明でぬるい風が窓から吹き込んでくる。

 でもこのわたしの体の重みを、わたし以外の誰が引き受けられるのだろう。

 それはわたし以外の誰にもできない、たいせつな仕事なのだ。


 わたしはそっと窓を閉める。透明でぬるい春の夜と、わたしの世界を仕切る窓硝子に映るのは、紛れもなくわたしの体だ。

 その体の輪郭を目で追う。

 もう寝ようとカーテンを閉めると、サイドテーブルに置いた携帯が鳴りだした。

 わたしはディスプレイに示された名前を確かめ、一呼吸おいてから何もつけられていない右手を伸ばす。



 忘れ物をした小学生が家に引き戻す。

 夜の音は電話越しの声によって遮られる。

 踊りを辞めたバレリーナが、再起をかけて立ち上がる。



 夜明けはずいぶんと、近くなっていたのだ。