――ほんとう。透明で、ぬるい。

 ぬるい夜、の意味も、分かる気がした。

 冷え切っているわけでもなく、汗ばむ気候でもなく。



 それはあのころのわたしたちの関係にも似ていた。



 ぬるい風が吹き、花弁が一枚、二枚……と光の筋の中に舞う。

 あの人と組んでいた腕を離し、代わりにあの人の正面に立つ。

 そしてあの人の両腕を、薬指にリングの嵌った右手と、そうでない左手で捕え、唇をねだる。

 今思えば、あのぬるさが終わりの始まりだったのだ。

――俺は、天使だからな。天使と人間はキスできない。

 ぬるい冗談でかわす彼の心はすでにわたしではないどこかへと向いていた。