恋の始まりというものは相手のことを四六時中考え、自分の体がここにあることなんて忘れてしまうくらいうきうきするものだけれど、恋の終わりはわたしの体がここにあることをはっきりと教えてくれる。


 やけに自分自身の体の隅々にちょっとした異常が現れて、特にそれは静かな夜になると急激に気になりだすものだから、ゆっくり寝れやしない。

 たとえば、遠足のリュックを忘れた小学生のような右手の薬指だとか、無意識のうちに注意深く遠くからやってくる夜の音を聞きとろうとしている両耳だとか、足の怪我のせいで泣く泣く踊ることに終止符を打ったバレリーナのような左胸だとか。

 そういう体を、あの人は平気でわたしに与えた。