私はまたバッグを握る手の力を強め、
「うん。お……おつかれさま。それじゃ……」
 と返した。

「姫のん、またねー!」

 関谷くんは両手で大きくバイバイをしてくれて、私は停車したバスのステップをのぼりながら、なんだか気はずかしくて小さく手を振った。央寺くんは、軽く手を上げている。

 発車するバス。あえて、停留所と反対側のうしろから三番目の席に腰を下ろし、私は胸に手を当てて大きく息を吐いた。

 ……あの出来事を、誤魔化してくれたのかな。

 私は、央寺くんの淡々とした表情に隠れたさりげない優しさに、胸がじわりと温かくなるのを感じていた。