「松村さんとは、どうして言い争いを?」

 聞きにくいなと思ったのだが、せっかくなので尋ねてみた。誰ひとり通らないこの狭い路地でするような話では決してないのだが、誰にも見られていないというのは詠斗にとって好都合だった。

『……知子の、怪我のことで』
「怪我?」

 思わぬ単語が飛び出し、詠斗は眉をひそめた。

『はい。聞いていらっしゃるかもしれませんが、私は女子バレー部のマネージャー、知子は部長を務めています。試合においてももちろんレギュラーメンバーで、引退のかかった試合を四月の末に控えているんですけれど……』

 言いかけて、美由紀は少し言葉を切る。

『知子、右の手首を疲労骨折していたことを隠していたんです』