しゃがみ込んで目を閉じ、静かに手を合わせる。
 この姿を当の本人に見られていると思うとどこか気まずい感じがしたが、美由紀は特に何も言ってこなかった。

「さて」

 手すりに頼りながら立ち上がり、詠斗は階段に背を向けた。

「ここから百メートル、か」

 ひとり呟きながら、詠斗は来た道をゆっくりと戻り始めた。
 舗装された道路の左右には昔ながらの住宅が所狭しと立ち並んでいる。表札を見ると『塩田』と『木村』ばかりで、ずっと昔からこの地に根付いている一族なのかな、なんてことを想像してしまう。門構えが立派な豪邸もあって、きっと地主の家なのだろうと勝手に結論付けていた。