「いらっしゃいませ」

 自動ドアが開いた瞬間、カウンターに立っていた赤いエプロンを身に付けた女性の店員に微笑みかけられた。花屋で働いている人の年齢などじっくり考えたこともなかったが、思っていたよりもずっと若い人でつい驚いてしまった。

「あ、すみません」

 すたすたとカウンターに歩み寄ると、詠斗は手にしていたペンとメモ帳を店員に差し出した。

「僕、耳が聴こえないので、筆談をお願いしたいんですけど」

 急ぎの用をこなしたり、初めましての人を相手にしなければならなかったりする場合、詠斗は迷わず筆談という手段に打って出る。「ゆっくりはっきりしゃべってください」とお願いしておきながら結局何度も聞き返すことになっては申し訳ないので、書いてもらったほうが互いに軽度のストレスを感じるだけで済む。長年の経験が選ばせる選択肢だ。