はぁ、と詠斗は大きく息を吐き出した。

 簡単に言ってくれるなぁ、なんて、口にしたら殴られるだろうか。

 この二人ほど、こうも簡単に心を揺さぶってくる人はいない。
 父も母も、兄でさえ、ここまで踏み込んでくることはない。

 固く結んだはずの決意を、この二人はいとも簡単に揺るがしてくれる。

 頼んでなど、いないのに――。

「……鼻クソはほじるな」

 何と答えようか迷った挙句、出てきた言葉はそれだった。

「汚い」

 そう真面目な顔で付け足すと、巧は大きな口をあけて笑った。

「例えばの話だろ?! やんねぇから! そんなはしたなくねぇから、オレ!」

 巧の隣で、紗友もケラケラと笑っていた。

 つられて口元を緩めるかたわらで、ずっと押し込めていた想いの灯《ひ》が詠斗の心に小さく宿る。

 二人の楽しげな笑い声が、この耳にも届けばいいのに、と。