怒りを滲ませた瞳で巧は詠斗をキッと睨む。

「オレはいい。お前が言う通り、ちょっとおもしろそうだなって思ったことは認める。けど萩谷はそうじゃねぇ。お前にもわかってんだろ?」

 巧の肩越しに、ちらりと紗友の顔を見る。今にも雨が降り出しそうな、そんな暗い空と同じ色の瞳をして、紗友も詠斗のことをじっと見つめ返してきた。

「萩谷はただ純粋にお前の力になりたいと思ってるだけだ。オレよりもずっとお前のことをわかってるし、もしかしたらお前以上にお前のことを考えてるかもしれない。それのどこに突っぱねる理由がある? 先輩の願いを叶えるのに、萩谷の手を借りちゃいけない理由なんかねぇはずだろ?」

「誰の手を借りようが俺の勝手だろ? 俺はただ、お前らをこの件に巻き込むつもりがないってことを……」

「だーもうっ! どうしてお前はそうやっていつもひとりで抱え込もうとすんだよ?!」

 あまりにもまっすぐ心に投げ込まれた巧の言葉に、詠斗はぐっと眉を寄せた。

「お前のことだから、どうせオレらに迷惑がかかるからとか、そんなくだらねぇこと考えてんだろ? あのなぁ、お前ひとりの世話を焼くくらい鼻クソほじりながらでもできんだよ。何も慈善事業に取り組んでるわけじゃねぇ、単純に友達としてお前の力になりたいだけだ。オレも、萩谷も」

 詠斗とまっすぐに目を合わせ、巧は真剣だった表情を崩してふわりと笑った。

「耳のこと、気にしてんのはお前だけだと思うぞ? オレは別に、耳が不自由だからお前の友達やってるわけじゃねぇし」

 な? と言って、巧は紗友を振り返った。紗友も笑って頷いている。