それに、いずれは容疑者扱いされているという松村知子にも話を聞きに行こうと思っていたわけだが、見知らぬ先輩が後輩の、しかも耳が不自由であるという条件付きの後輩の話に真面目に取り合ってくれるだろうか。自分が松村知子の立場なら、馬鹿馬鹿しいと一蹴してしまうかもしれない。

 確かに、紗友と巧の手を借りれば少しは楽に捜査を進められるだろう。けれど、詠斗にはそれがどうしても許せなかった。

 手柄を独占したいとか、そんな陳腐な思いではない。

 ――自分の人生には、できれば誰も巻き込みたくない。

 それが、聴くことの自由を奪われた詠斗が一つ心に決めていることだった。

「……いい加減にしろ」

 つい、詠斗は語気を強めてしまっていた。

「お前らの助けなんていらない! 遊びじゃないんだ、興味半分で首を突っ込まれても困る!」

 そう言って、詠斗は食べかけの弁当箱を乱暴に片付け、二人と目を合わすことなく屋上の出入り口に向かって歩き出した。しかし、扉にたどり着く前に巧の大きな手に肩を掴まれ、強引に体の向きを変えさせられた。

「さすがに今のはねぇだろ、詠斗」