「……『詠斗さんは私に背を向けてしゃべり出すことが多い』だって」

 二つの視線に求められるまま、詠斗は美由紀の言葉を通訳した。「うそだろ」と巧の口が動いたように見えたが確信はない。

「マジで聴こえてんのかよ、あの女バレのマネさんの声」

 バスケ部員であるためか、巧も美由紀のことを知っているような口ぶりだ。紗友ほど親しくはなくとも、同じ体育館にいれば顔見知りくらいにはなるのだろう。

「なぁなぁ、先輩にはオレらの声も聴こえてんの?」
『聴こえていますよ。紗友ちゃん、久しぶりですね』

「聴こえてるって。紗友には久しぶりですねって言ってる」
「え?……あ、はい、お久しぶりです美由紀先輩。この度はとんだことで……」

 目に見えない、すでにこの世を去っているはずの先輩を相手に戸惑いながらも、紗友は美由紀に対して丁寧に頭を下げた。その隣で、巧も目を閉じて手を合わせている。

「満足したか?」

 詠斗は紗友と巧に対してそう言った。

「俺には先輩の声が聴こえてる。先輩が巻き込まれた事件の解決を頼まれて、兄貴に相談したら先輩と手を組めば事件は解決するだろうって言われた。それだけだよ。別に困ってなんかいないし、助けてほしいとも思わない。犯人は俺が見つけ出すよ、先輩と一緒に」

 心からそう思っているということが、二人には伝わっただろうか。二人は目を見合わせている。

「うん、わかった」

 改めて詠斗に向き直った紗友は、はっきりと口を動かした。