「全然楽しくないですよ、何を聞いてたんですか」
「××?」
「×××?」

 詠斗はハッとして二人を見た。何と言ったのかは読み取れなかったが、二人とも恐い顔をして詠斗を凝視している。

 つい美由紀の声に反応してしまったが、紗友と巧にしてみれば詠斗が突然宙に向かって怒り出したようにしか見えない。やはりこの二人が絡むと厄介だなと詠斗は改めて思った。

「通訳してよ、詠斗」
「え?」
「その辺にいるんでしょ? 美由紀先輩の霊」

 紗友の提案に、詠斗は再び眉を寄せる。

「言ったろ? 先輩の姿は見えてない。何なら声のする方向もわからないんだ」

『そうですね、詠斗さんはだいたい私に背を向けてしゃべり出すことが多いです。なので、私のほうからあなたの正面に回り込むようにしています』

「そうだったんですか……」

 地味にヘコむ事実を告げられ、詠斗はついまた美由紀の声に反応してしまった。言ってから、再び二人に怪訝な顔を向けられていることに気づく。