「マジかよ、詠斗」

 開口一番、巧は驚きを隠すことなくそう詠斗に言った。

「この状況で信じろってほうが難しいぞ。どう見たってお前がひとりでしゃべってるとしか思えねぇ。病院で診みてもらったほうがいいんじゃねぇのか?」
「見てたのか」

 そう言って、詠斗は弁当箱を置き、背のないベンチを跨ぐようにしながらくるりと体の向きを変えて立ち上がった。

 察するに、紗友と巧は美由紀と会話する詠斗の様子をしばらく観察していたのだろう。その結果、巧にもまた美由紀の声も姿も捉えられず、詠斗がひとりでべらべらと話しているようにしか見えなかった。確かに、精神医療をすすめたくなる気持ちもわかる。これがすべて幻想なら、詠斗だっていよいよ自分を信じられなくなるだろう。

「……てか、紗友はともかく、どうしてお前までいるんだよ? 巧」
「萩谷に頼まれたんだよ、お前の話が本当かどうか確かめたいから付き合えって」
「おぉ、ついに付き合い始めたのか。おめでとう」
「そういう『付き合う』じゃねぇ。わかれよ、空気読めよ」

 何故か巧は怒っている。その隣で、紗友がため息をついたようだ。

「傑くんから連絡が来たの」