『えっ、そうなんですか?』

「兄がそう言っていました。小柄な先輩より背が高いってだけじゃ男性だと判断できないって。何か男性だと結論付けられるような情報があれば話は変わってくる、とも」

『なるほど、そう言われれば』

 そうですねぇ、と美由紀は少し考えるように間を置いた。

『何しろ一瞬の出来事でしたから……確かに、男性だと決めつけるのは早計だったかもしれませんね』

「けど、松村さんじゃなかったことは間違いない?」
『はい、それははっきりとお答えできます。私を殴ったのは知子ではありませんでした』
「その根拠は?」
『ないです』
「え」
『はっきりとした根拠はないですけれど、仮に知子だったのならば気づいていたのではないかと。さすがに私もそこまで阿呆あほうではありませんから』

 根拠もなしに胸を張られても、と詠斗はやはり頭を抱える。これ以上この人から有力な情報を引き出すことなどできないのではないだろうか。

「……わかりました。では、覚えていることなら何でもいいので教えてもらえますか?」
『そうおっしゃられましても』
「少しは思い出す努力をしてください。真犯人、見つけたいんでしょう?」
『うぅ、痛いところを突いてきますね』

 どこが痛いのかさっぱりわからない。――と思ったのだが。

 その時、詠斗ははたと気が付いた。

「……ひょっとして、怖いんですか?」