しばらく沈黙の時が続いていたが、先に口を開いたのは美由紀だった。

『仲田翼さん……お話したことは一度もありませんでしたけれど』
「そうなんですか?」

 思いがけず美由紀のほうから情報をもたらしてくれた。いいタイミングだ、このまま傑から課されたミッションに取り組もうと詠斗は箸を握る手を止めた。

『えぇ。お顔は時たま拝見しますけれど、何せ仲田さんはあまり学校に来ていませんでしたからね』
「本当ですか? それ」
『えぇ、今の三年生ならみんな知っていることかと。黒い噂の絶えない方ですから』
「黒い噂?」


 何やら不穏な空気が流れ始める。胸を刺されて殺されるだけの理由が仲田翼にはあったということだろうか。

『中学の頃から悪いことばかりしてきていたようですね。聞くところによると、街で誰かを恐喝しているところを見た人がいるとか、いないとか』
「恐喝……」

 人を脅して金を巻き上げていたわけか。なんともタチの悪い。しかしこれが本当なら、殺される理由になりそうではある。

「脅されていたほうが誰なのかは?」
『さぁ、そこまでは』

 ですよね、と詠斗は肩をすくめた。どうもこの人の言うことはとりとめのないものばかりなような気がしてならない。

「そういえば、先輩を襲った犯人は男じゃないかもしれないです」