屋上に出ると、今日は風がひんやりと冷たかった。濃紺のブレザーは比較的地厚い作りだが、風を通さないわけではない。春が来たとはいえ、まだ暖かさの安定しない四月の空で薄い白雲が足早に流れていた。
『お待ちしていましたよ』
びくっ、と思わず肩を震わせてしまった。見えないところから急に声をかけられるのって、こんなにも恐いことだったっけ――。
そんなことすら忘れてしまった自分に落胆しつつ、詠斗は努めて笑顔で宙を仰いだ。
「こんにちは」
『こんにちは、エイトさん』
突如として降ってきた言葉に、いつも通りベンチに向かっていた詠斗の足がぴたりと止まった。
「……そう言えば俺、名乗りましたっけ」
『いいえ。けれど、紗友ちゃんが昨日そう呼んでいましたから』
紗友ちゃん、と美由紀は当然のように言う。紗友と美由紀は本当に知り合いのようだ。
「すみません、吉澤詠斗っていいます。詠はごんべんに永遠の永、斗は北斗七星の斗」
『詠斗さん。綺麗な名前』
「そうですか? 言われたことないです。響きだけで言えば数字の八だし」
『グローバルな発想ですね』
それほどでもないだろう。このご時世、eight程度なら幼稚園児でも知っている。
止めていた足を再び動かし、詠斗はベンチに腰かけて弁当箱を広げ始めた。天の声は何も言ってこないので、詠斗も黙って箸を進める。
『また一人、亡くなったそうですね』
『お待ちしていましたよ』
びくっ、と思わず肩を震わせてしまった。見えないところから急に声をかけられるのって、こんなにも恐いことだったっけ――。
そんなことすら忘れてしまった自分に落胆しつつ、詠斗は努めて笑顔で宙を仰いだ。
「こんにちは」
『こんにちは、エイトさん』
突如として降ってきた言葉に、いつも通りベンチに向かっていた詠斗の足がぴたりと止まった。
「……そう言えば俺、名乗りましたっけ」
『いいえ。けれど、紗友ちゃんが昨日そう呼んでいましたから』
紗友ちゃん、と美由紀は当然のように言う。紗友と美由紀は本当に知り合いのようだ。
「すみません、吉澤詠斗っていいます。詠はごんべんに永遠の永、斗は北斗七星の斗」
『詠斗さん。綺麗な名前』
「そうですか? 言われたことないです。響きだけで言えば数字の八だし」
『グローバルな発想ですね』
それほどでもないだろう。このご時世、eight程度なら幼稚園児でも知っている。
止めていた足を再び動かし、詠斗はベンチに腰かけて弁当箱を広げ始めた。天の声は何も言ってこないので、詠斗も黙って箸を進める。
『また一人、亡くなったそうですね』