やっぱり信じられない様子の穂乃果。昼間の紗友と同じ顔だ。詠斗は肩をすくめた。

「俺も未だに信じられないよ。さっきも言ったけど、先輩の声以外は相変わらず何も聴こえないままだし」
「嘘でしょ……? 幽霊の声ってあんた……」

 穂乃果は額に手を当てた。うーん、と唸っているようだ。

「いいじゃないか、どんな声だって」

 そう言ったのは傑だ。

「音のない暗闇の中にいるよりは、少しでも声の届く場所にいられたほうがずっといいだろう。それが、たとえこの世に存在しない者の声だったとしても」

 な? と兄は悟ったような目を向けてくる。詠斗は小さく息をついた。

 まったく、こうもあっさり心を読まれると居心地が悪くて仕方がない。いっそ穂乃果や紗友のように信じられないという顔をしてくれていたほうがましな気さえした。

 気を取り直して、詠斗は事件の話に論点を戻した。