厳しいお兄さんだこと、と肩をすくめながら穂乃果が再び資料を手渡してくる。答えがわかっているならさっさと教えてくれればいいのに、と心の中だけで悪態づきながら、詠斗はもう一度資料に目を落とした。

 身体的特徴に着目しろ、と兄は言う。そう言われるも、ピックアップすべき特別な情報はないように思える。しいて言えば、女子の中でも身長が低めという点くらいで――。

「……そうか」

 ぱっと顔を上げ、詠斗は傑の目をまっすぐ見た。

「先輩の身長は一五三センチ。仮に先輩より十センチ背が高かったとしても一六三センチ。これなら女性の平均身長程度だし、一七〇センチある女性だっていくらでもいる。『ずいぶん』という先輩の言葉を信じるにしても、それだけで男性だと決めつけるには心もとない」

「その通りだ。何か他に男性らしい特徴を思い出せるのであれば、それを聞き出して手がかりにするのがいいだろうな。今のところ有力な目撃情報もないという話だし」
「わかった、明日聞いてみる」

「……ねぇ、詠斗」

 少し不安げな表情で、穂乃果がそっと口を挟んだ。

「本当に聴こえたの? その……被害者の霊の声が」