背後で腹を立てたまま突っ立っている女子生徒の気配を感じたが、振り返ることはしない。こうして待っていれば、向こうから自分の正面へと回り込んでくる。

 五秒も経たないうちに、女子生徒はベンチに沿って詠斗の正面へと回り込み、そっとしゃがんで詠斗の顔を見上げた。ここまでは想定通り。しかし、女子生徒が紡いだ言葉は詠斗の想像から少し外れていた。

「……ちょっとは頼ってくれないかな? 私のこと」

 少しだけ驚いたような顔をしながら、詠斗は喉を動かし口の中を空にする。

「クラス長なんて面倒な役回りに就いてまで、俺をどうにかしたいわけか? お前は」
「そういうんじゃないけど……」

 そう。
 この女子生徒こそ、詠斗の所属する創花《そうか》高校二年二組のクラス長・萩谷紗友《はぎやさゆ》。