「えっ?!」

 まさしく望んでいたものを何の疑いもなく差し出してきた傑に、詠斗は驚愕の目を向けた。

「どうして……?」

「簡単なことだよ。悲しいことではあるが、お前から僕に連絡を入れてくるなんていうのは余程のことがない限りあり得ない。最近お前の周りで起きた『余程のこと』といえば、お前が通う高校の生徒が殺された事件くらいなものだろう? 僕が刑事であることを勘案すれば、何かその事件絡みのトラブルに巻き込まれて困っているから助けてほしい、という道筋が自然と浮かび上がってくるわけだ。まさか殺人の被害者の声が聴こえたなんて言い出すとは思わなかったけどな」

 楽しそうに笑う兄を前に、詠斗は小さく息を吐き出した。ぐうの音も出ない。
 いつだって、兄は自分の一歩先を胸を張って歩いていく。

「ちょっと、なに勝手に捜査資料持ち出してるのよ?!」

 そう声を上げたのは穂乃果だった。
 穂乃果と傑とは高校時代からの付き合いで、実は穂乃果も元警察官である。刑事になるのが夢だったらしいのだが、傑にその夢を託す形で自分はあっさり寿退職してしまった。現役時代、所轄の交通課で「ミニパトの魔女」とあだ名されていたと傑がこっそり教えてくれたのだが、あまりにもぴったりで言い出した人に拍手を贈りたいと思った。