「それで?」

 傑は椅子の背に体重を預けながら詠斗に尋ねる。

「あぁ……うん」

 ようやく本題に入らせてもらえるようで安心したのだが、いざ話そうとするとどこから話せばいいのかわからない。そもそもの話、兄が自分の話を無条件で信じてくれる保証などないのだ。ちょうど美由紀と話していた時に出くわした紗友ならともかく、今この場で傑を説き伏せられるかどうか――。

「なんだ、聴こえるはずのない幽霊の声でも聴こえたか?」

 詠斗が言いよどんでいると、傑が唐突にそう口にした。

 ぽかん、と詠斗は口をあけ、思わず兄の目を凝視する。

「ほう、図星か」

 これは面白い、と声に出して楽しそうに笑う傑。すると、麦茶の入った三人分のグラスをお盆に乗せてダイニングテーブルへとやってきた穂乃果がぴたりとその足を止めた。

「うそでしょ?……本当なの? 詠斗」

 信じられない、といった顔をして詠斗を見つめ、ややあってからグラスを順に並べると、驚きを隠しきれないまま傑の隣に腰を落ち着けた。