とにかくこの吉澤傑という男、昔から詠斗のことが気になって気になって仕方がない兄なのだ。
何なら母親に勝る勢いで詠斗に対して世話を焼きたがり、社会人になってからは母親を差し置いて自ら授業参観に出席しようとしたこともあった。全力で拒否したらすっかり拗ねてしまい、さすがに申し訳なくなって結局詠斗が折れる羽目になり、当の傑は満面の笑みで授業参観に足を運んだ、という具合だ。いつの時代も、弟が兄を超えようとすればそれ相応の苦労がついて回るものである。
ただ、彼がそこまで詠斗に執着するのには理由があった。
詠斗が生まれたのは、傑が「どうしても兄弟がほしい」と両親に頼み込んだおかげなのだという。そうして授かった念願の弟が生まれてみれば耳に病を抱えていて、傑なりに何か思うところがあったのだろう、とにかく詠斗の世話をすることに毎日全力を注いでいたのだそうだ。詠斗が生まれたときの傑は小学六年生。友達と遊ぶよりも詠斗との時間を大切にするような兄だった。
幼い頃はそんな兄が大好きだったのだけれど、小学校も高学年になってくるとさすがにうっとうしさが芽生え始め、兄の猛攻をかわすことばかりが上達してしまっていた。ちょうどその頃から聴力がガクッと落ち始めたことも少なからず影響したのだろう、というのが詠斗による自己分析結果だ。
それでも、兄を嫌いになることはなくて。
好きなのだけれど、自立を阻害されるのは困るなあ、なんて思ってしまう詠斗なのである。
何なら母親に勝る勢いで詠斗に対して世話を焼きたがり、社会人になってからは母親を差し置いて自ら授業参観に出席しようとしたこともあった。全力で拒否したらすっかり拗ねてしまい、さすがに申し訳なくなって結局詠斗が折れる羽目になり、当の傑は満面の笑みで授業参観に足を運んだ、という具合だ。いつの時代も、弟が兄を超えようとすればそれ相応の苦労がついて回るものである。
ただ、彼がそこまで詠斗に執着するのには理由があった。
詠斗が生まれたのは、傑が「どうしても兄弟がほしい」と両親に頼み込んだおかげなのだという。そうして授かった念願の弟が生まれてみれば耳に病を抱えていて、傑なりに何か思うところがあったのだろう、とにかく詠斗の世話をすることに毎日全力を注いでいたのだそうだ。詠斗が生まれたときの傑は小学六年生。友達と遊ぶよりも詠斗との時間を大切にするような兄だった。
幼い頃はそんな兄が大好きだったのだけれど、小学校も高学年になってくるとさすがにうっとうしさが芽生え始め、兄の猛攻をかわすことばかりが上達してしまっていた。ちょうどその頃から聴力がガクッと落ち始めたことも少なからず影響したのだろう、というのが詠斗による自己分析結果だ。
それでも、兄を嫌いになることはなくて。
好きなのだけれど、自立を阻害されるのは困るなあ、なんて思ってしまう詠斗なのである。