「ダメだ」

 はっきりとした口調で、詠斗はそう言い放った。

「これは俺の問題だ。お前には関係ない」
「関係なくない!」
「関係ないって!!」

 声を張り上げると、さすがに紗友も黙らざるを得ないようだった。うっすらと、その瞳を潤ませているようにも見える。

「……願うだけでいい」

 そう言って、詠斗は柔らかく微笑んだ。

「願っててくれ、俺が無事に犯人を見つけられるように。それで十分だ」

 いつも紗友がやってくれるように、ぽんぽん、と詠斗も紗友の肩を優しく叩く。

「早く行けよ。もう練習始まってるんじゃないか?」

 じゃあな、と片手を挙げて、詠斗は紗友に背を向けて再び校門に向けて歩き始めた。

 紗友がしばらく背中を見つめていたことに気付いていたけれど、振り返ることはしなかった。