はぁ、と詠斗はひとつ息をついた。

「信じられないかもしれないけど、先輩の声が聴こえるのは本当のことだ。もっと言えば、先輩の声以外の音は今までどおり何も聴こえない。俺がひとりでしゃべってるように見えるのは、俺がおかしくなったわけじゃないから」

「うん、それはなんとなくわかった」
「なんとなくかよ」

「そりゃそうでしょ! 私には美由紀先輩の声が聴こえないし、何なら姿も見えないんだから!」
「あぁ、先輩の姿なら俺にも見えてないよ。霊感の強い人には見えるんだろうって先輩は言ってた」

 むん、と顔をしかめる紗友。無理もない、詠斗が美由紀と会話できているのは事実だが、それを証明する手段がないのだ。きっとこの先もずっと証明できないままだろう。紗友を納得させるには、一体どうすればいいのやら。

「とりあえず、今は教室に戻ろう。詳しい話はまた」

 そう言って、詠斗は紗友とともに校舎内へと駆けていく。授業が始まって、すでに十分が経とうとしていた。