血の気の引いた顔をしていた紗友の眉がわずかに動いた。

「春休み中に、って……まさか、美由紀先輩のこと?」
「知ってるのか?」

「うん、女バレのマネージャーだった先輩だよ」
「女バレって……どうしてバスケ部のお前がバレー部の先輩のことを?」
「私を誰だと思ってるの? 中部(なかぶ)の人のことならだいたい把握してるよ」

 『中部』とは中で活動する運動部――つまり、主に体育館で行われる屋内スポーツの部活動を指す総称としてこの学校で使われる言葉である。

 女バレこと女子バレーボール部をはじめ、バスケ部、バドミントン部、卓球部、ハンドボール部などが対象だ。それに対して、屋外スポーツである野球部、テニス部などの運動部は『外部(そとぶ)』と呼ばれている。ちなみに吹奏楽部や茶道部、英語部などの文化系部活動は、その名の通り『文化部』という何の捻りもない総称が使われていたりする。

「さすがは紗友さん、相変わらず人脈の広いことで」
「世渡り上手と言ってちょうだい」

 それはちょっと違うだろうと思ったが、スルーしておくことにした。冗談でも言っていないと、今は気持ちがついていかないのかもしれない。幼馴染が突然「死者の声が聴こえる」なんて言い出して冷静でいられるほうがいろいろと疑う。