「……ねぇ、詠斗」

 詠斗が予想した通り、紗友は早速切り出してくる。

「本当だったの?……昨日言ってた、誰かの声が聴こえたっていう話」

 恐々こわごわといった風で尋ねてくる紗友に、詠斗は何と答えるべきか迷った。何より、今はもう授業中だ。一刻も早く教室へ戻らなければならない。

「……先輩、まだそこにいますか?」
『はい、ここに』

 紗友から目を逸らし、詠斗は斜め上を仰ぐ。声が返って来たことに安堵すると、間髪入れずに言葉を紡いだ。

「すみません、一度授業に戻ります。詳しいことはまた改めて伺いたいと思うんですけど、あなたに会うにはここへ来ればいいんですか?」
『そうですね。どうやら私は生きていた頃にゆかりのあった場所にしか現れることができないようなので』
「ゆかり?」

『今のところ、この学校か、自宅か、事件現場……この三か所では問題なく幽霊としていろいろと見聞きできています。……そうだ、いっそ幽霊らしくあなたに憑とりついてみましょうか? そうすればあなたと私はいつでも一緒に行動できますよね!』
「やめてください、縁起でもない」