「紗友……」
と一言呟いただけでしばらく何も言えないまま、詠斗は紗友の目を見つめ返していた。紗友もまた、詠斗の言葉を待つようにじっとその視線に自分の視線を重ねている。
「……どうして」
ようやく口を開くと、凪いだ春風が詠斗と紗友の髪を揺らした。
「どうしてここにいるんだよ? 紗友」
「何言ってるの、もうとっくに授業始まってるんだよ?」
はっとして詠斗は胸ポケットに手を突っ込んだ。取り出した携帯で時間を確認すると、午後一時三十三分。五時間目の授業は三分前に始まっていた。
しまった、と思ったがもう遅い。つい美由紀との会話に夢中になって、アラームの振動にまったく気が付かなかった。紗友がここへ来たのは、授業が始まっても教室に戻って来なかった自分を呼びに来たからだ。ここでも詠斗は頭を抱えることになってしまった。
おそらく紗友はこの一瞬で理解しただろう。詠斗の周りで、今何が起きているのかということを。
と一言呟いただけでしばらく何も言えないまま、詠斗は紗友の目を見つめ返していた。紗友もまた、詠斗の言葉を待つようにじっとその視線に自分の視線を重ねている。
「……どうして」
ようやく口を開くと、凪いだ春風が詠斗と紗友の髪を揺らした。
「どうしてここにいるんだよ? 紗友」
「何言ってるの、もうとっくに授業始まってるんだよ?」
はっとして詠斗は胸ポケットに手を突っ込んだ。取り出した携帯で時間を確認すると、午後一時三十三分。五時間目の授業は三分前に始まっていた。
しまった、と思ったがもう遅い。つい美由紀との会話に夢中になって、アラームの振動にまったく気が付かなかった。紗友がここへ来たのは、授業が始まっても教室に戻って来なかった自分を呼びに来たからだ。ここでも詠斗は頭を抱えることになってしまった。
おそらく紗友はこの一瞬で理解しただろう。詠斗の周りで、今何が起きているのかということを。