諦めの混じる笑みで、どこへともなく視線を上向ける。

「もう少し、あなたの声を聴いていたい――あなたの声が聴こえるなら、あなたのわがままに付き合ってもいいかな、って」

 もう二度と、音のある世界に戻ることはないのだと諦めていた。

 けれど、たったひとりの女性の声だけなのだけれど、この耳は再びその機能を取り戻してくれた。

 少しでも長く、この声を聴いていたい。

 完全ではないものの、音のある世界に生きているのだということを感じていたい。

 声が聴こえる喜びを、もっと、もっと――。

『……あなた、』

 少し間を置いたのち、美由紀の声が再び降ってくる。

『変わり者だって言われるでしょう?』