「待ってください」

 無意識のうちに、詠斗は美由紀に向けてそう声をかけた。まだそこにいてくれているのか、確信はなかったけれど。

「わかりました。――俺、犯人捜します」

 面と向かって言ったつもりで、詠斗はまっすぐ前を見る。

「実は、兄貴が刑事なんです」
『えっ?』

 おっ、と詠斗は思わず声をあげてしまった。美由紀の声が返って来たことに、素直な喜びの感情が心に灯る。詠斗は続けた。

「あなたが殺された事件を担当しているかどうかはわからないけど、一応、殺人事件を扱う部署の人間です。兄貴なら俺の言うことを信じてくれると思いますし、お友達の無実を証明する手立てを一緒に考えてくれるはずです。……それに」

 言葉を切って、詠斗はほんの少しだけ俯いた。

「俺がここであなたの頼みを断ったら……もう本当に、誰の声も聴こえなくなっちゃうから」