きっとにこやかに笑っているのだろうな、と見えない美由紀の口もとを想像してしまい、詠斗は右手でそっと額を押さえた。

 そういえば、と詠斗の手が額から離れる。いくら同じ学校とはいえ、羽場美由紀という女子生徒を詠斗は知らない。……いや、よく知らない、が正しい言い方だ。一昨日の始業式で、校長から春休み中に生徒が一人亡くなったという話が出ていたことを今さらながら思い出す。あの時話題になったのがこの羽場美由紀という女子生徒だったわけだ。
 ここまで思考を巡らすも、結局のところ今の詠斗には、彼女は一体何者で、どんな顔をしているのか、声以外に何の情報もない状態であることに変わりはない。そして、何故彼女は殺されることになってしまったのか――。

「……一応、訊きますけど」
『はい、何なりと』

 うきうき感満載の声が返って来て、やっぱり頭を抱えることになる詠斗だった。この人、本当に殺されたのか? それにしては、いやに冷静な気がするのだが。

「何か殺されなきゃならないようなことをしたんですか?」
『失礼な! 心当たりなんてありませんよ。誰に殴られたのかもわからないですし、どうして死ななくちゃならなかったのか、まったく見当もつきません』

「なるほど、それで自分が殺された理由が知りたいと?」
『それだけじゃありません』

 意外な答えが返って来て、詠斗は少し眉を上げた。

『私の友人が、犯人じゃないかって警察に疑われているみたいなんです』