しばらく待っていると、屋上の扉が開かれた。

 姿を現したのは紗友だった。昨日頼んでおいたとおり、一人の女子生徒を連れてきてくれた。

「お待たせ」

 紗友が言うと、詠斗はその後ろについてきた女子生徒に向かって頭を下げた。

「すみません、ご足労いただきまして」

「いいよ。……あ、これくらいの速度ならわかる? あたしの言葉」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 耳のことは自分から話そうと思っていたのだが、どうやら紗友が先に事情を話してくれていたようだ。こういう細やかな心遣いにもきちんと礼を返していかないと、と詠斗は改めて紗友にも「ありがとう」と言った。

「で、何の用?」

 女子生徒――松村知子は改めて詠斗と向き合った。