「……ダメです」

 ぽつり、と詠斗は俯きながら呟いた。

「アイツは……アイツには、もっと広い世界でいろんな人と出会ってほしい。俺のもとにいたって、苦労をかけるばっかりで……」

『それはあなたが決めることじゃないでしょう?』

 え? と詠斗はもう一度顔を上げる。

『何を幸せと思うかなんて、他人には決めようのないことです。紗友ちゃんの人生なのですから、紗友ちゃんの心を尊重してあげないと』

 男らしく、と美由紀は胸を張って付け加えた。その姿があまりにもまぶしくて、詠斗は思わず目を逸らした。