「えっと……まず、あなたは、その……幽霊、なんですよね?」
『俗っぽく言えばそうなります。まさか自分が幽霊になって後輩の男の子と触れ合うことになろうとは思っても見ませんでしたけれど』
そうでしょうね、と詠斗は力なく相槌を打つ。自分だって、幽霊の先輩と言葉を交わす日が来るなんていう未来は想定していなかった。というか、そんな未来を想定して生きている人間などまずいないだろう。
「えーっと、俺の声は届いているようですけど、俺の姿は見えているんですか?」
『もちろん、見えていますよ。階段の上から投げ落とされてどれくらいが経った頃かはちょっと判断できかねますけれど、この姿になってからは目も耳も正常に機能しています』
「なるほど、了解です。俺には、声は聴こえてもあなたの姿は見えていないもので」
『あら、そうだったんですね。どうりでさっきから視点が定まっていないはずです。もともとそういう方なのかと思っていましたけれど、違ったのですね。すみません』
「いえ。一応、視力は今まで一度も衰えたことがないです」
『視力は?』
意外と鋭い人なのか、美由紀は細かいところを拾って突き返してくる。ひとつ小さく息をつき、詠斗はまた少し斜め上を仰いだ。
「俺、耳が聴こえないんですよ」
『俗っぽく言えばそうなります。まさか自分が幽霊になって後輩の男の子と触れ合うことになろうとは思っても見ませんでしたけれど』
そうでしょうね、と詠斗は力なく相槌を打つ。自分だって、幽霊の先輩と言葉を交わす日が来るなんていう未来は想定していなかった。というか、そんな未来を想定して生きている人間などまずいないだろう。
「えーっと、俺の声は届いているようですけど、俺の姿は見えているんですか?」
『もちろん、見えていますよ。階段の上から投げ落とされてどれくらいが経った頃かはちょっと判断できかねますけれど、この姿になってからは目も耳も正常に機能しています』
「なるほど、了解です。俺には、声は聴こえてもあなたの姿は見えていないもので」
『あら、そうだったんですね。どうりでさっきから視点が定まっていないはずです。もともとそういう方なのかと思っていましたけれど、違ったのですね。すみません』
「いえ。一応、視力は今まで一度も衰えたことがないです」
『視力は?』
意外と鋭い人なのか、美由紀は細かいところを拾って突き返してくる。ひとつ小さく息をつき、詠斗はまた少し斜め上を仰いだ。
「俺、耳が聴こえないんですよ」