「……待って」

 自分の声すらよく聴こえないこの耳でも、ようやく絞り出した声が震えていることは理解できた。

「待ってくださいよ、先輩」

 あぁ、どうしてこんなことを口にしているのだろう。

 こんな日が来ることくらい、とうの昔にわかっていたはずじゃないか。

 いつまた音を失ってもいいようにと、覚悟を決め直したばかりだというのに。

「ねぇ、待って」

 それなのに、どうしてこの口は美由紀を引き留めようとしているのだろう。

 もはやこの世のものでなくなってしまった美由紀の魂は、天国へ行ってしかるべきなのに。