「紗友」

 震える肩を一つ叩き、詠斗は紗友に歩み寄った。
 ゆっくりと振り返った紗友の瞳は、涙でいっぱいになっていた。

 もう二度と、泣かせまいと決めていたのに。
 自分のせいで紗友が涙を流すのは、あの日だけでもう十分だったのに。
 
 紗友の肩に置いた手に少し力が入る。今日の自分を許せる日が、いつか訪れるだろうか。

「俺のことはいいから」
「よくないッ!!」

 大粒の涙を零しながら、紗友はぶんっと頭を振った。

「どうしていつもそうやって諦めた顔をするの?! あんなこと言われて悔しくないの?!」