『詠斗さん』

 美由紀の呼び声が耳に届く。誰の言葉を通訳するでもないその声が示すものは、と詠斗は後ろを振り返った。

「やめて」

 そう口を動かしたのは紗友だった。

「詠斗の前でそんなこと言わないで」

 泣き出す寸前の顔をして、紗友は神宮司を睨み付けた。神宮司を振り返ると、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべている。

「吉澤……お前確か、耳が聴こえないんだったよなぁ?」