『聴こえているんですよね? 私の声』

 聴こえる。聴こえている!

 けれど、これに答えるにはどうすればいいのだろう。普通にしゃべれば、こちらの声は届くのだろうか。

「……聴こえます」

 おそるおそる、詠斗はそう口にした。

『あぁ、良かった……! やっと出逢えた、私の声が届く人に』

 返事が来たことに感動し、詠斗は思わず立ち上がった。膝の上に乗せていた弁当箱がころん、と地面へ転がったが、プラスチックが地に当たった音は聴こえない。やはり、聴こえているのはこの女性の声だけだ。

 ばっと首を振って辺りを見渡してみる。けれど、昨日と同じで屋上に人影はない。

 だとしたら、この声の主は一体――?