『アイツに命令されたの?』

 自分と華絵との会話は聞き取れなくとも、遠巻きに見ていれば何が起きていたのかは自ずと見えてくるのだろう。嘘をついても良かったけれど、千佳は素直にこくりと頷いた。

『そうか……他にもいたんだな、搾取することに快感を覚える人間《クズ》が』
『えっ……?』

 思ってもみない言葉を口にしたその人に、千佳はそっと顔を上げた。

『どういうこと……?』

 涙を拭いながらそう問いかけると、その人は自嘲気味な笑みを浮かべて肩をすくめた。

『どうもこうも、僕もたった今むしり取られたばかりだからさ』
『……何を……?』
『カネ』

 たった一言そう答えた彼の瞳は、絶望の色を湛えていた。

 その瞳に映る自分の目にも同じ色が浮かんでいて、千佳は言葉を紡ぐことができなかった――。